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なつかしい本

2011.12.13.Tue
 小学生のころ、学校の図書室から借りてきた安房直子さんの「ハンカチのうえの花畑」という本が気に入って、何度も何度も繰り返し読んだおぼえがあります。何がそんなに気に入ったのは、よくわからない。とにかく引き込まれたのでしょうね。この人の物語の手触りのようなものは、わたしのなかに長く残っていて、大人になってから、ちくま文庫で作品集を見かけたときも、つい買ったりしていました。わたしにとっては、なんとなく手もとに作品を置いておきたくなる、なにか大事なものとして棚にしまっておきたくなる、そんな作家さんのようです、安房さんは。

 そうはいっても、ごくたまに手に取る、その程度ではあるのですが、最近になって、偕成社から「安房直子コレクション」というのが出ているのを知り、思わず全巻を大人買いしてしまいました。少し古い人(?)なので、そのうち手に入らなくなっちゃったら大変だわ、と思ったもので。

安房直子コレクション 全7巻セット安房直子コレクション 全7巻セット
(2004/04)
安房 直子

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 作品を通して何かを強く訴えるとか、そういうタイプの作家さんでもないのも、いいのかもしれません。自由にゆっくり、好きなように作品の中に遊ぶことを許されているような気がします。読んだ後も、やさしく暖かい気持ちになれるものや、静かな余韻が残るものが多いです。

 このコレクションには、安房さんのエッセイが掲載されていますが、作品世界と同じように優しい人柄が感じられる文章ばかりで、あぁ、やっぱり作品は、文章は、人を語るのねぇと思います。そのなかに「海の館のひらめ」という作品について書かれたものがあります。

 この話は、安房さんの作品にしては珍しくメッセージ性を感じます。まじめで正直で一所懸命だけど、ちょっと不器用なコック見習いの青年が、お店の先輩や店主にいじめられるなか、「海の館のひらめ」という魚に助けられながら、おいしい料理の作り方を覚え、独立するためのお店を手に入れ、可憐なお嫁さんももらって幸せになるという話です。なぜ海の館のひらめが、その青年を助ける気になったかというと、正直で一所懸命なところが気にいったから。こうやって筋書きだけを取り出してみれば、お話としては平凡ではあります。ですが、安房さんには、特別な思い入れがある話のようです。

 (『海の館のひらめ』を書くまでは)作品の中に自分の人生観や、重たいテーマをこめたことは、ほとんどありませんでした。(中略)それが、ふいに、こんな作品を書く気になったのは、わが子を、はじめて集団の中に入れて、現実の子どもの世界を、まざまざと見たせいではないかと思います。

 子どもの世界というのは、一見美しいようで、よく観察していますと、まさに社会の縮図です。弱肉強食「正直者が馬鹿をみる」というようなことが、いくらでもおきている世界です。そういうところで、傷ついて帰ってくることの多かったわが子に、私は、どうしても、「もっとしたたかになりなさい。やられたらやりかえして、取られたら取りかえしなさい」と、教えることができませんでした。どんなに損をしても、正直で、まじめなのが一番いいのだと、今、つらい思いをしていても、神様がちゃんと見ていると、教えたかったのです。



 今どきのイジメは、このころよりもっと陰湿でひどいだろうけど、もし、今の時代に安房さんが生きていても、やっぱり、こういうふうにしかできない方のような気がします。作品を読んでいて、ホッとするのは、こういう人が書いたからなんだろうなぁ。正直にまじめにがんばれば、きっと・・・というのは、現代では通用しないお伽噺でしょうか。そんなことはないと思いたい。島田くん(あ、主人公は島田くんというのです)は、今でも世の中にたくさんいる。島田くんと、島田くん君を応援するひらめとの物語も、きっといろんな所でひそかに進行している、そう思いたいのですけどね。なんか小学生の読書感想文のようですが。

 どんな仕事も、正直にやるのが一番、というのは基本だと思うのだけど(そして基本を踏み外せば、必ず自滅していると思うのだけど)、翻訳の仕事は、この「まじめに正直にがんばりさえすれば」というのが実現しやすい仕事の一つかもしれないと思います。わたしのような精神的へたれでも、なんとかがんばれるのは、だからかもしれません。

 ところで、「ひらめ」の話のなかに、こんな文章が出てきます。「(島田くんは)しんけんでした。火かげん水かげん、塩のかげんに、コショウのひとふりまで、けっして、いいかげんにはしませんでした」というのですが、あ、これ、翻訳にも通じるなと思いました。わたしも、ふだんの仕事を、ちゃんとこういうふうにできているだろうか。わが身を振り返って、つい、塩をふられた魚のように身が引き締まってしまった。まじめに正直にやるっていうのは、こういうことなんだわ。やっぱり、この仕事は大変です。でも、やらなきゃ。
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コメント
Re: はじめまして
鍵コメを下さった******様

安房さんの作品、読んでいただけて嬉しいですー。
いい作品が多いので、少しずつお楽しみ下さいませ。

翻訳の勉強は精神的になかなか辛いですよね。
こんなことやってて、いいんかいな…とか。
でも、この仕事は特別な才能なんか要りませんし、
(強いて言えば、しつこく食い下がるあきらめの悪さ、でしょうか)
続けるが勝ちなので、
挫折などとおっしゃらず、どうかがんばって下さい。
No title
はじめまして。
『海の館のひらめ』を検索して、こちらに参りました。
似たような夢をみたので、
ブログ上であらすじを紹介したいと思い、
恐れ入りますが一部の文章を引用させていただき、
こちらのページのURLをリンクとして
貼らせていただきました。
もし、ご迷惑となるようでしたら、
削除いたしますので、その旨お知らせいただければ幸いです。

ちなみに、私も安房直子さんのお話が大好きです。
読むたびに、情景が脳裏に浮かびます。
味戸ケイコさんの、やわらかい
独特のタッチの挿絵も大好きでした。
あー坊さま

このような瀕死のブログをご覧いただき、ありがとうございます。
こんなあらすじでよければ、どうぞご活用下さいませ。
安房直子さん、あらためて読むと、やっぱりいいですねぇ。

No title
nobaraさま、ありがとうございます!

ほんとうに、安房直子さんのお話は良いです。
ふわふわやさしいだけではないところ、透明感のある残酷なところもあるのが、魅力なのかもしれませんね。
山椒っ子や、鳥。タイトルが出ないのですが、海亀の花嫁にされそうになる娘の話、など。
全集が出ているとは知りませんでした。一気に読み直したくなりますね。

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